ACTと森田療法の詳細比較と実践例
概要
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)と森田療法は、いずれも「感情を否定せず、受け入れながら、価値に沿った行動を取る」という点で共通した哲学を持つ心理療法である。しかし、背景や技法には文化的・理論的な違いがある。
共通点
ACTと森田療法の共通点
| 共通点 |
説明 |
実践例
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| 感情や症状を排除しない |
不安や悲しみを否定せず、「あるもの」として受け入れる姿勢。 |
不安があっても、「このままでいい」として静かに見守る。
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| コントロール不能なものを手放す |
感情や症状をコントロールしようとすると逆に強まるため、操作しようとしない。 |
「不安をなくそうとしない」=「不安を持ったまま買い物に行く」など。
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| 行動に焦点を当てる |
感情に振り回されず、価値や目的に沿った行動を優先。 |
「怖いけど、人前で話す」など。
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| 価値・目的に生きる |
本人が大切にしている人生の方向性に基づく行動を推奨。 |
「自分は人とつながることを大切にしている」→「孤独でも会話を始める」など。
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相違点
ACTと森田療法の相違点
| 観点 |
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー) |
森田療法
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| 理論的背景 |
第3世代の認知行動療法。関係フレーム理論(RFT)やマインドフルネスの影響。 |
東洋思想(禅・儒教・自然観)と日本的経験主義に基づく。
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| 治療の枠組み |
セッション形式(個別・集団・オンライン)。短期・長期両対応。 |
従来は入院療法、現在は外来・生活療法としての応用が中心。
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| 技法と進め方 |
脱フュージョン、アクセプタンス、現在への気づき、価値明確化、コミットメント。 |
初期静養→軽作業→重作業→生活訓練の段階的アプローチ。
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| 認知への態度 |
思考と距離をとる「脱フュージョン」(思考は真実ではない)。 |
思考や感情の操作を行わず、自然の経過に任せる。
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| 主な対象 |
うつ病、不安症、PTSD、依存症、慢性疼痛など幅広い。 |
神経症(強迫性障害、対人恐怖、不安神経症)を中心。
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ACTの具体的実践例
- 脱フュージョン: 「私はダメだ」という思考を「私は『私がダメだ』と思っている」と言い換える練習。
- アクセプタンス: 痛みや不安を感じながらも、それを抱えて呼吸し続けるマインドフルネス呼吸法。
- 価値明確化: 自分が人生で大切にしたい価値(例:誠実さ、家族、学び)をリストアップ。
- コミットメント: 価値に沿った行動目標を設定し、実行に移す(例:「週1回、誰かに感謝を伝える」)。
森田療法の具体的実践例
- 初期静養: 何もせず、横になって過ごす(2~4日)。症状の回復を目的にせず、自然経過に任せる。
- 作業療法: 雑巾がけや庭仕事など単純作業を通じて、注意を症状から外へ移す。
- 日記療法: 毎日の気づきや感情を記録し、観察者の視点を養う。
- 目的本位の行動: 症状に関係なく、目的(学校に行く、働く)に従って行動する。
共通する哲学的背景
- 苦しみを人生から排除しようとするのではなく、「苦しみは人間に本来的に備わっているもの」として共存していく。
- コントロール志向(「不安をなくしたい」「症状を消したい」)が苦しみを悪化させる。
- 「いま・ここ」に集中し、価値に沿った生き方をすることで、人生の充実を回復する。
関連文献
- スティーヴン・C・ヘイズ著『ACTをはじめよう』(星和書店)
- 岡本浩一著『あるがままに生きる 森田療法入門』(ちくま新書)
- 中井久夫監修『森田療法のすすめ』(講談社)